YUI-灯火(5)「理解者」

YUI-灯火(5)「理解者」

「さてと」

 

啓太が、重いわけでもなさそうな腰を、

 

態とらしく重そうに伸展して立ち上がる。

 

こんなに背が高かったんだなと、

 

今更ながらまじまじと凝視してしまう。

 

「ん?どうした?」

「なんでもない」

 

一瞬何か大きな時間の流れを感じた気がした。何か。

 

そう何か思い出せないものがある。

 

そんな気がした。

 

ただ、啓太にはいつもの私と変わらなく思えたらしい。

 

「変なやつだな相変わらず。まあわかってはいるがね」

 

一瞬言いかけたが、啓太は気づかず矢継ぎ早に急かされる。

 

「 それよりな。そろそろ遅刻だろ」

 

気がつけば背後に逆光を抱えた、啓太が腕を伸ばしてくる。

 

「なにそれ?」

「いやだからさ」

「だから?」

 

啓太が大きく溜息をつく。

 

「はいはい、悪かったよ。結衣は触られるの嫌いだったな」

 

気まずそうに差し出したはずの手を

 

黒い頭髪に埋めて気まずそうな表情で掻き回している。

 

「ま、たまにはいいよ」

 

そう言って不注意に垂れ下がったもう片方の手首を掴む。

 

一瞬啓の革靴のかかとが擦れる音がした。

 

ほんの一瞬のことで、

 

すぐに咳払いをして向き直ってくる。

 

「おまえさ、反応見て楽しんでるんだろ?」

「まあね。それとお礼だ」

 

空いたもう片方の手でカバンから

 

再び取り出したガラスの小瓶。

 

キラキラと水面が揺れる小さなガラス瓶越しに

 

右目で啓太を見やる。

 

気がつかないうちに笑みが漏れていたらしい

 

「おまえ、本当に本気なんだな。そのクスリを使うってことなんだよな」

 

啓太なりにそう解釈したらしい。

 

その表情には若干の戸惑いのようなものが見て取れた。

 

「ちゃんというから」

「は?」

「だから、ちゃんというから。これ使う前には」

 

その辺りの物分かりが悪い啓太ではない。

 

「もちろん止めに来いって意味じゃあないんだよな」

 

表情を悟られないためだろうか。

 

啓太は太陽を仰ぎ見て眩しそうな声と背中でそういった。

 

「うん」

 

啓太にはこれで十分伝わることがわかっている。

 

「わかった。結衣の生き方だもんな。うん。そうだよな。だけどな、さっきの約束は忘れんなよ」

 

返事をしなくても伝わることはわかっている。

 

だけど約束はきちんとしたかった。

 

「約束は約束だ。ちゃんと連絡するから」

 

どちらから動いたわけでもなく、

 

私は啓太の腕を支えに立ち上がり、

 

啓太もそれに合わせて引き起こしてくれた。

 

 

あの少年のような声は

 

すっかり聞こえなくなっていた。